CRAFTSMAN×CRAFTSMEN Vol.2 後編/津吉 学

Craftsman & Craftsmen

CRAFTSMAN&CRAFTSMEN VOL.2 後編

こだわりと誇りを持ち日々仕事をしている方達と、
STUMPTOWNプロデューサーである菊池氏との対談
職へのこだわりや情熱をお尋ねしながら、ブーツとの関連性を探りつつ
お互いのクラフトマンシップについて語り合う。

CRAFTSMAN vol.2
FDMTLデザイナー/津吉 学
<後編>

今回のゲスト、「ファンダメンタル[FDMTL]」を手掛ける津吉学氏。
後編は、靴への想いやこだわりを深堀していきます。
そもそも津吉氏の靴事情が気になります。

菊池:
津吉さんはスニーカー好きなイメージがあります。
ジョーダンに関してはかなりのマニアっぷりですよね?他に気になる靴はありますか?
津吉:
ジョーダンは相当好きです。数もめちゃくちゃ持ってますし。靴で言うとスニーカーはとても好きですが、靴全般が好きなのかもしれないです。
菊池:
というと、普段ブーツも履きます?
津吉:
もちろん履きます。ブーツデビューは97年か98年で、当時アメリカの西海岸を旅行した時に一緒に行っている友達にレッドウィングを教えてもらって、購入したのがきっかけです。当時は日本では手に入りにくいって聞きました。
菊池:
当時は大ブームでしたからね。アメカジ人気もさらに助長してというのも、もちろんありましたけど。僕も店に立ってて、在庫があればあるほど出て行きましたね。
津吉:
やっぱそうだったんですね。そこからブーツも気になりだして、今に至ります。現状だとどういったブーツが人気ありますか?
菊池:
全体的には今もなお好きな人は多くいますけど、新しい流れとしては短靴です。クラシックソールを使用した、どちらかというとドレス寄りになるんですかね。
津吉:
これがそうですか。このVibramソールを切っているのは何か理由があるんですか?
菊池:
これは、クラシックなスタイルを保っている感じです。いわゆるブランドの洒落っ気と言いますか、ある意味こだわりの部分で特に機能面とかの大きな理由はありません。これをつくる当時のきっかけとしてはあったかもしれませんが。
津吉:
白ソールはどうなんですかね?
菊池:
昔はデニムに白ソールのブーツが人気で定番だったかと思います。ですが、最近はデニムにスニーカーが主流になった為、流れ的には少し鈍ってきていますね。
津吉:
クラシックなスタイルはずっとやり続けて欲しいです。やっぱそこが起源だしオリジナルだと思うので。ダナーライトやマウンテンライトも形は大きく変えてないですもんね?
菊池:
大きくは変えていません。その分素材とかで変化をつけたりしています。
――
靴 のルーツと、現状の流れが聞けた。
津吉氏からダナーのブランドの姿勢というか、サービスについて質問が。
津吉:
そういえばダナーは履き込んだブーツも再生してくれるんですよね?
菊池:
リビルドという形で、僕としてはブランドの義務だと思っています。新しいものを買うのは簡単ですけど、金額も金額ですし、再生できることで愛着もさらに湧くじゃないですか。本格的な登山靴のお店さんだとオフシーズンに入るとブーツを預かってくれるケアをしているところもありますよ。結局、糸から水を吸い上げてしまって痛めてしまうんですよ。なので松ヤニを塗ったりしてメンテナンスして保湿がされた環境で保管して、シーズンが始まると受け渡すという。普段履きのワークブーツだとなかなかそこまでする文化がないですからね。とはいえ、ワークブーツを履いている人口は多くいてくれているので、そのノウハウをワークブーツでも活かせるんじゃないかと思って行っているという事です。
日本ではまだそのサービスは行っていないのですが、アメリカの方では依頼が多いですね。実際に仕事で使っている人もアメリカは圧倒的に多いですから。受け入れるこちらも気持ちを込めて再生しお戻し致します。日本の職人も修行をしてもらって、いつか日本でもできるようにしたいと思っています。
津吉:
オレゴンの工場にお邪魔させてもらった時に、ちょうど職人さんが作業をされていて。見ていると1足作るより大変なんじゃないかなって思いました。バラすところから始まって、それなりに形に個体差があるものを再生させていくという。
菊池:
靴屋なので、正直新しいの買ってくれたらと思う事もありますけど、そのブーツへの愛着とか、その人の形になってしまっているものという事を考えると、これは義務というか当然の事だなと思っています。
――
ブ ランドの義務という責任感が強く現れていた。
“愛着”というキーワードはブーツやデニムには切っても切れない、とても馴染みも深く、ブーツやデニム好きにはたまらない言葉だと感じる。
津吉:
ワークブーツももちろんですけど、登山靴は特にその人の足になじんでしまっていますよね。そのブーツが再生されるというのはお客さんとしてはとても嬉しいですよね。
菊池:
シャツとかでもそういうケアをしてもらえると僕は嬉しいです。気に入っているシャツの襟の上の方がほつれてしまった時に、街のお直し屋さんではなく、ブランドさんで補修してくれるサービスがあるといいですよね。
津吉:
デニムだと出来ますね。シャツだと厳しい部分がありますけど、僕も修理は受け付けています。その人のクセとか普段の行動が分かるんですよ。デニムを見ると。
菊池:
ブーツと近いですね。履きジワとか歩き方のクセも分かってしまいますから。
津吉:
やっぱりそうですか!デニムだと、この人はこっちにライターを入れていたんだなとか財布を後ろじゃなくて前のポケットに入れてたんだとか。変な意味じゃなくて、その人の生活が垣間見られます。
菊池:
依頼はけっこう来ますか?
津吉:
割と来て頂けています。他社さんのものも受け付けているので、裾上げから穴の補修など様々ですが。僕もそうですけど、やっぱり愛着が湧きますね。穴が開いて補修すると愛着が湧いて、その人にとって新品の時より価値が上がると思っています。
――
ブ ーツやデニムは、人となりまで垣間見られてしまうほどその人の生活に密着している存在で、共に生活している事を改めて実感した。
津吉:
デニムを見るのと、先ほどのボロの生地を見る時の感情が似ていて、色の落ち具合とかその人の生活の行動とかが表れてるし、この生地はどこから来たんだろう?とか。新品を作るのも見るのも、もちろん好きですけど、やっぱりアタリの出ているものを見るのも好きですね。
菊池:
アタリ職人ですね。ところで海外の人はアタリとか興味持っていますか?
津吉:
かなり興味持っていると思います。デニムの縦落ちとか好きですしね。
菊池:
昔はそうじゃなかったですよね?僕のイメージだとあまり興味が無いんだなって感じてました。
津吉:
確かにそうだと思います。リーバイスのヴィンテージ人気が上がった時に一部の人が興味を持ち始めて、理解するようになって徐々にそれが広まっていったっていう印象です。その延長線上に藍染とかに興味を持ち始めた人が出てきて、今の和のブームに繋がっていると思います。
――
こ んなブーツの楽しみ方もあると菊池氏が語ってくれた。
津吉:
デニムとかだとダメージ加工ってスタンダードになって来ていますけど、ブーツだとエイジングの加工って需要というか文化的にはあるんですか?
菊池:
ブーツの場合ですと、表面のエイジングというより革の芯の色を出す加工はあります。表面の色が擦れてくると、地の色味がにじみ出ます。茶色の芯だと『茶芯』といって、とても雰囲気が出てきますよ。
菊池:
これは、元々表面は黒いブーツなんですけど擦って茶芯を出しています。これは履いていくことを表現したくて、僕が履いているものを少し加工したものです。これはスゴい説得力ありますよ。
津吉:
ブーツのユーズド加工は需要ありそうですよね。
菊池:
公式には受け付けていませんが、もしご希望があれば行いますよ。
――
ここから、こだわりや物への愛着がとても強い両者が手を組んだプロダクトの開発秘話を少しだけお聞きする事が出来た。
菊池:
津吉さんと作らせて頂いたブーツは今の話の流れとは真逆ですけど、傑作だと思っています。
津吉:
ありがとうございます。確かに、意識としては元々山だったりハイキングだったりとかアウトドア的な印象がありますけど、僕が作らせて頂いているものは街のイメージというか、高級なレストランとかホテルとかに履いていけるようなブーツにしたいと考えています。それを今、ダナーの皆さんと一緒に作らせて頂きました。
ベースのモデルは全く変えないと自分で決めていて、そこに自分らしさというものを載せています。和っぽい柄というかツギハギと言いますか、テクスチャを載せて、全く新しい印象のものを作りたかったので、いろいろお願いしました。
菊池:
頂いたデザインを革にプリントしています。僕としてもそれが、ひとつの新しい表現になればいいなと考えています。
津吉:
そうですね。和のエレガントさを纏った洋のブーツがイメージです。
革にプリントすることによって、元々の機能面を削ぐわないようにするのにダナーの方々の頭を悩ませてしまいました。もちろんプリントが剥がれないような加工もして頂けました。相当な苦労をかけてしまったと思います。
菊池:
絶対に剥がれないというのは、正直難しかったので、剥がれ方にとても注意しました。
津吉:
ペリっと剥がれるんじゃなくて、擦れてくるというイメージですよね?
菊池:
めくれてしまうのはどうしても嫌だったですね。そうなると、ある程度革の表面を加工していかないと無理なので、プリントする前段の部分から、かなり試行錯誤しながら作りました。ようやく乗って来てくれたというところまでいけば、あとはプリントがしっかり乗ってくれたんですよね。そうすると付着してきて地が出てしまうのではなく、プリントの付着が擦れていくという事になるんです。履き込んでくるとその表現がさらに良くなってきますよ。
津吉:
フィールドテストもしていただいて。
すごく良いものが出来たと思っています。正直自身もあります。
菊池:
世界的にもかなり限られたお店でしか展開しません。ダナーブランドとして、初めて日本人のデザイナーを起用したブーツとなりますから。かなり期待大です。
津吉:
わがままばかりですみませんでした。苦笑。本当にありがとうございました。

PROFILE

津吉 学 | FDMTL DESIGNER
2005年設立。「着用するほどに愛着の湧く商品」をコンセプトに、風合い豊かな素材を用いて、細部まで気を遣ったコレクションを展開。2009年、東京都目黒区に初の直営店「CATII TOKYO」をオープン。
2015-16年秋冬シーズンよりブランド名を海外での通称「ファンダメンタル(FDMTL)」に改名した。
デニムをメインとした日本のアパレルブランド。
菊池 孝 | STUMPTOWN DIRECTOR
STUMPTOWNのディレクションだけでなく、フットウェアやアパレルのプロデュースも手掛け、イベントの企画立案などにも携わる。
仕事以外の趣味としても家具やオブジェ制作、デザインやペインティングなどにも造詣が深く、その多岐に渡る創作意欲には各業界も注目する。
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